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ハブダイナモとは?仕組み・構造を分かりやすく解説

ハブダイナモとは?仕組み・構造を分かりやすく解説

ハブダイナモは日常生活から産業用まで幅広い範囲でその用途により定義が異なりますが、ここでは自動車開発分野におけるダイナモメーター(Dynamomater)に関して解説します。
近年は自動車開発分野において自動車の駆動力評価テストに用いる「ハブ直結型ダイナモ(ダイナモメーター)」や新技術として注目される「インタイヤハウスダイナモ」などを総称しハブダイナモと呼称しています。この記事ではハブダイナモを取り上げ、仕組みや構造、メリットのほかローラー型シャシーダイナモとの違いなどを解説します。

ハブダイナモとは

ハブダイナモ(ハブ直結型ダイナモ)は自動車の燃費・動力を測定する装置であるシャシーダイナモの計測設備方式の一つとして大別されます。一般的なシャシーダイナモはタイヤに接するローラーを回転させ動力を計測しますが、ハブダイナモはその名の通り車両のハブに直接ダイナモを装着し回転させ動力を計測します。

ハブダイナモの仕組み・構造

上述の通りハブダイナモは車両のホイールを外しハブに直接ダイナモを装着し、回転させ計測します。直接装着して計測するため、タイヤスリップの心配もありません。負荷も自由に設定することが出来ます。

ハブダイナモのメリット/デメリット

ハブダイナモは車やバイクの開発段階において活用されていますが、ハブダイナモを用いるメリットは具体的にどのようなものがあるでしょうか。また、メリットを得られる一方でデメリットも存在することにも注意しなければなりません。ここでは、シャシーダイナモのメリットとデメリットを確認しましょう。

メリット

ハブダイナモのメリットとしてまず挙げられるものは、試験室内でも実走行を再現した状態で車両の性能評価が出来る点です。車両に一定の負荷が掛かるようにし、走行時の再現性に優れた環境を整えたうえでデータを測定することで、正確な数値を把握できます。
またハブに直結する設備構造であるため試験再現性に優れており、スリップグリップなどローラー型シャシーダイナモでは難しい特定条件試験を実現することが可能です。
さらに接続治具等を工夫すれば車両だけではなくトランスミッションなど構成部品単位での試験も同一の設備で試験することが可能です。

デメリット

通常のハブダイナモは車両の重量を直接負担することはできないため、接続部に中間軸受装置などを介して接続するのでトレッド方向(ダイナモ軸方向)のスペースが必要です。
また車両試験としては実タイヤが無い状態での試験となるため、本当の意味での完成車両データ(実タイヤの挙動を含めた試験データ)を取得することはできません。

シャシーダイナモとハブダイナモの違い

ここまで自動車開発分野におけるハブダイナモ(ハブ直結型ダイナモ)を解説してきましたが、改めてシャシーダイナモにおけるハブダイナモとローラー型ダイナモの違いを見ていきましょう。

ローラー型シャシーダイナモ ハブ直結型ダイナモ
構造 自動車の車輪をローラーに載せて運転状況を再現し、回転したローラーの状況より動力に関する情報を得る 自動車のタイヤを外してハブにダイナモを装着し、タイヤ軸から直接動力に関する情報を得る
用途 自動車の馬力やトルク、空燃比、コンディションなどの測定装置
自動車の排気管から放出されるCO、HC、NOx、CO2の総排出量を測定し、モード排出ガス量(g/km)や燃費値(km/L)を算出。
ローラー型シャシーダイナモの各種用途に加え、特定条件下で状態再現が必要な試験を実施可能。
また四輪独立トルク制御などが必要な試験を実施することが可能。
特徴 タイヤを含む完成車両状態での自動車が路上を走行しているかのような試験用シーンを再現できる。
タイヤの影響を含んだエネルギー測定。
シャフトトルク測定の誤差が大きい。
タイヤを含まない車両状態での試験用シーンの再現に加え、車両発進時や加減速時などの過渡的な試験用シーンを再現できる。
タイヤの影響を含まないエネルギー測定。
また測定繰り返しの精度が安定的である。

上記に挙げたローラー型シャシーダイナモの試験システムとしての用途に関して、実用化されている製品を参考にしつつ、その役割や構造の解説を補足します。
自動車の排出ガスや燃費試験方法の基本は、評価対象の車が実走行に限りなく近い条件を試験室内で再現し、その時の排出ガス量や燃料消費量を実測することです。試験では、試験車の速度変化(走行モード)が統一されていないと正しい測定や評価、比較は行えません。そのため、実際には都市内の公道走行における平均的な走行データを基に、試験時の走行モードを決めるのが一般的です。ローラー型シャシーダイナモメーターの主な役割は、ローラー上に載せた試験車に、実走行条件に近い条件を与えることです。実際の公道を走行するように、ローラー上を走行する試験車が規定通りの速度変化で運転し、エンジンに加わる負荷も実走行時と同じように再現されるかが重要です。

構造を見ると、ローラー型シャシーダイナモは、慣性力の再現性の違いで「電気慣性式」と「機械慣性式」に分かれます。昨今主流となる電気慣性式の場合、構造は「駆動輪設置ローラー」と「ダイナモメーター」です。電気慣性式は機械慣性式よりも省スペースで設置でき、コストも抑えやすいのが特徴です。試験車に慣性力に相当する正負の負荷量を与えられるよう、ダイナモメーターの吸収トルクが制限されます。機械慣性式の欠点をカバーできますが、機械的に慣性抵抗力を作るため、性能確認の難しさが課題です。後述の機械慣性方式の試験システムに比べ省スペース化を実現し、実施する試験内容に合わせて「ADAS試験用」「電波暗室用」「特殊環境下」などいくつかのバリエーションが展開されています。試験できるのも乗用車(2WD、4WD)のみならずハイブリッド車や電気自動車(EV車)など、多彩な車両の試験に対応します。実際の構造のイメージは「技術解説-シャシダイナモメータによる車両評価(3)」を参考にしてください。

一方の機械慣性式は、試験車の車輪を載せる「駆動輪設置ローラー」、異なる慣性モーメントをもつ複数の慣性板で構成された「フライホイール(FW)」、動力源としての「ダイナモメーター」で構成された専用の建屋の構造です。専用の建屋を設置するため一度設置してからは場所を移動できません。高性能のフライホイールを使用するため設定慣性量が確実で、経時変化しないのが特徴です。しかし、設置に要する総コストは電気慣性式よりも高く、設定できる慣性量も段階的になってしまう欠点が課題です。

ここまでが主なローラー型シャシーダイナモでの全容ですが、実施できる主な試験は次の通りです。

  • 動作性能、燃費性能、耐久性試験
  • EMC(電磁両立性)試験
  • 天候試験(-40〜+50℃のような極高低温環境、降雨、降雪環境における走行試験)
  • 騒音、無音、振動試験
  • 排ガス燃費試験(各地区法規に対応)
  • 次世代低公害大型車(DME自動車、天然ガス自動車、ハイブリッド車など)の低公害性評価実験
  • 電気慣性制御、ADAS(先進運転支援システム)を再現下での試験
  • ラインチェック(工場出荷前の完成車抜き取り試験)

ローラー型シャシーダイナモメーターだけでも車両試験を行えますが、ローラー型シャシーダイナモメーターに車両センタリング装置やローラー表面形状(ローラに実路面を模写したパッド)、ドライバーズエイド、冷却ファン(車両用、タイヤ用)といったオプション装置をつけることで、より幅広い試験を可能とします。国内外では自動運転やADAS(先進運転システム)の開発が需要の高まりとともに過熱している状況です。そしてシャシーダイナモ(シャシーダイナモメーター)はこの一翼を担う存在として、注目されているのです。現在、シャシーダイナモは、自動車開発におけるさまざまな試験を行うための試験システムに用いられています。基本はエンジンの馬力測定器ですが、実走せずともコンピューターセッティングにより実走しているかのような条件下でテスト走行が行える便利な機能をもつのです。

ハブダイナモの代替インタイヤハウスダイナモとは

ハブダイナモの代替インタイヤハウスダイナモとは

ハブダイナモの代替に注目されるのが「インタイヤハウスダイナモ」です。
ここからはインタイヤハウスダイナモの仕組みや測定方法を解説していきます。

インタイヤハウスダイナモの仕組み・構造

昨今、先述したシャシーダイナモに代わる新技術として注目されるのが「インタイヤハウスダイナモ」です。測定の具体的な仕組みは、後述の測定方法と併せてご覧ください。インタイヤハウスダイナモは、シャシーダイナモと同じ自動車試験システムとして活用されることを想定したものです。シャシーダイナモの仕組みは自動車の車輪をローラーに載せて運転状況を再現し、回転したローラーの状況より動力に関する情報を得るという仕組みでした。インタイヤハウスダイナモはこれに対して仕組み、試験設備の構造、環境に違いがあります。

インタイヤハウスダイナモの場合、車体から車輪を外した状態の試験車の車輪部分にタイヤ代わりに取り付ける車輪部分と、この車輪部分を下で安定させる土台を利用し運転状況を再現していきます。

先ほどのシャシーダイナモ(シャシーダイナモメーター)の場合、慣性力の再現性の違いで「電気慣性式」と「機械慣性式」に分かれていました。インタイヤハウスダイナモは、電気慣性式の構造とほぼ同じです。外観の構造は車輪部分と土台のみで、電気慣性式で設置するような専用建屋が不要、平面上のスペースを確保できれば最小限のフロア工事で設置できます。空間が限られるような車両整備室はもちろん、2階や3階といった環境にも設置できるため、走行機能テストの柔軟性向上に寄与する構造です。このように、インタイヤハウスダイナモは省スペースで従来と同等の自動車試験を実現するだけでなく、自動運転技術やADAS目的のテストといった新たな領域を開拓する可能性も秘めています。

インタイヤハウスダイナモの測定方法

インタイヤハウスダイナモは、シャシーダイナモのなかでも電気慣性式のシャシーダイナモとしての新たな測定器といえるでしょう。続いては、インタイヤハウスダイナモの測定方法を、電気慣性式の測定方法を参考に紹介していきます。電気慣性式の場合、フライホイールの役割をダイナモメーターに担わせる測定方法です。ダイナモメーターのトルクコントロールにより、[設定等価慣性質量-装置の固定慣性量]×[瞬時加速度(ローラの回転パルス信号から検出) ]から計算される抵抗力を電気の力で作り出します。

機械慣性式では設定できる慣性量も段階的になってしまう欠点がありましたが、電気慣性式の場合はこの原理から慣性量の設定は無段階に行え、シャシーダイナモ設備の固定慣性量より軽い重量の試験車の場合にはマイナスの慣性を与えた条件で試験を行えるといったメリットがあります。しかし、正確な試験を実施するには性能確認の難しさに加え、「試験中の電気慣性の吸収負荷量が正確であったか」「ダイナモ自体の制御機能が経年劣化による狂いが生じていないか」などの確認する仕組みも不可欠です。開発段階で正確な条件下で試験が行われなければ、危険な製品を世に送り出すリスクとなるのはもちろん、開発にかけた貴重な時間やコストを失い、発売後のリコールといった深刻な損失を生じかねないリスクが発生します。このような事態を招くのを防ぐ意味でも、高精度かつ利便性に優れた自動車試験システムが普及していくことが必要とされているのです。

インタイヤハウスダイナモのメリット・デメリット

インタイヤハウスダイナモの仕組み・構造とも一部重複しますが、インタイヤハウスダイナモにはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。まずはメリットを機械慣性式や従来のシャシーダイナモと比較する形で紹介します。

メリット

  • 省スペースでの設置が可能で、設置できる場所の範囲が広がる
  • 設置時のコストを抑えられる
  • 試験車の取り付けも容易に行える
  • タイヤがないのでロードノイズが発生せず、車内異音なども判別できる
  • 試験時の騒音低減

デメリットに関しては、いまのところ特筆すべきものはありません。しかし、インタイヤハウスダイナモはサイズおよび取付スペースに特化した特徴的な構造であるが故、試験方法によっては対応できる車種に限りがあります。この問題解決に向け、東洋電機製造株式会社では車種・用途に合わせたシリーズ化・ラインナップ化の開発を予定しています。

インタイヤハウスダイナモの相談なら東洋電機製造

最後に、東洋電機製造株式会社の手がけるインタイヤハウスダイナモを利用した自動車試験機に関してご紹介します。自動車用試験システムの1つであるインタイヤハウスダイナモは、将来的に普及が進む自動運転評価やシャシーダイナモの代替を目的に開発された背景があります。まずはインタイヤハウスダイナモの開発仕様や主な特徴は以下の通りです。

開発仕様

最高回転数 2,000min-1
最大瞬間トルク 1,350Nm
装置外形 650mmφ(18inch対応)
トレッド幅 185mm
対応ブレーキロータ 16inch
許容荷重 600kg(1基あたり)

当社が発行している統合報告書「東洋電機製造レポート」では、「自動車の電動化、自動運転に資する試験装置開発の推進」としてインタイヤハウスダイナモのシャシーダイナモへの適用、量産化に向けた取り組みが進められていることを報告しています。インタイヤハウスダイナモは従来型シャシーダイナモのような大規模な建築工事が不要で、平面上のスペースを確保できれば最小限のフロア工事で設置できます。省スペースでありながら、無響室やEMC試験を実施する電波暗室への設置も可能です。実際の走行試験では駆動力と車速がシャシーダイナモと同じレベルであることを確認し、車体の四輪を個別に制御できるためあらゆる走行条件を再現して検証できます。気になる静粛性に関しても、ダイナモの騒音値は約70dBを実現し、検証試験中でも車両本来の音をクリアに聴けます。シャシーダイナモ自体に車輪がないため、ロードノイズが生じる恐れもなく、車内からの異音の判別も可能です。取り付けの際はフロアジャッキなどを使い、タイヤホイールを取り替えるような要領で取り付けます。載せる車体のハブ形状に対し、専用アダプターを用いることで幅広い車種に対応するのも特徴です。また、車の直進安定性やコーナリング性能に影響を与えるトー角(トーイン)やキャンバー角、キャスター角などは実車にならう構造で、試験を行えます。今後は車両カメラやレーダー、GPSと組み合わせての検証や自動運転車評価への適用拡大を模索中です。
また当社ではインタイヤハウスダイナモのほかにも、自動車・二輪車・建設機械など様々な車両開発に必要な試験装置として以下のような試験装置のラインナップをご用意しています。

  • 各種トランスミッション試験装置
  • トランスアクスル試験装置
  • デファレンシャルギヤ試験装置
  • CVTベルト試験装置
  • エンジン試験装置
  • EV/HEV 試験装置

当社では、今後も情勢を注視し高い精度と信頼性に裏付けされてきたこれらの試験システムと共に、今後も開発期間の短縮化と次世代の自動車開発に寄与することを目的に普及を進めていきます。

まとめ

今回は、ハブダイナモやダイナモの仕組み、シャシーダイナモとの違いを中心に、当社が開発を進める「インタイヤハウスダイナモ」技術もご紹介しました。ハブダイナモ、シャシーダイナモおよびインタイヤハウスダイナモは、過熱する自動車開発分野発展の一翼を担う有望な存在といえるでしょう。

当社は2023年5月にパシフィコ横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展2023」にインタイヤハウスダイナモを展示致しました。専用の建屋を不要としながら自動運転技術やADAS(先進運転支援)テスト領域開発という秘めたる可能性を現実化に一歩近づける仕組みとして登場しました。電気自動車や自動運転技術分野は、今後さらに需要や開発が加速する見通しです。

当社は自動車試験システムのインタイヤハウスダイナモをはじめ、各種モータや産業・交通事業製品、注目が集まるICTソリューション製品の開発に向け、幅広いラインナップを用意しております。貴社におけるニーズから使いやすさと安全性を考慮した具体的、かつ理想的なソリューションを提供させていただきますのでぜひ、ご検討ください。


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